水漏れ

透かして見れば下水の真砂さえも数えられそうなくらい、小波寄せて美しく水が澄んでいるのに、その深いこと!三十尋の水漏れ 枚方市の全部を入れても、まだ下水にとどかないのであった。しかも不思議はそればかりでなく、山の中腹から頂へかけて洒な白の洋館は、ちらりほらりと、樹間に隠見しているにもかかわらず、これだけ水が近付いていっても、浜辺に人一人たたずんでいる気配もなかったのであった。ただにそういう人影が見えなかったばかりではない。第一これだけ天然の良港でありながら、この港には、港湾の設備すら何一つ見えなかったのであった。桟橋なぞというものはともかくとしても、そこには小舟を舫う棒杭一つ打ってあるでもなく、無人の浜辺には、ただ颯々と風に吹かれて五、六本の椰子の木が、淋しく梢の葉を鳴らしているばかり、第一小舟すらないのであった。海に漁っている舟がないばかりでなく、浜辺に揚げられてある小舟一隻すら見えなかった。ただわずかにそれと覚しいのは、岬とも思われる北西方の岸辺に材木を組んだ足場の残骸みたいなものが積み重ねられ、その上に紅鶴らしいものを形取った木組が打ち棄てられてあり、その傍には彩色を施した櫂らしきものの何本かが投げ棄てられてあるのが、わずかにそれと覚しきものであったが、こんなものはもちろん船などというべきではなく、むしろ筏と称した方が適当であったろう。